アルバイトで身につけた技の最たるものといえば、「コーヒーテク」だ。
大学時代に住んでいたマンションの近くにコーヒー専門店があり、「アルバイト募集」の貼り紙を見つけて飛び込んだところ、即採用。カウンター10席と4人がけのテーブルが1つあるだけの小さな店で、大学の授業を終えた夕方から夜10時の閉店まで、夕食つきで働くことになった。
豆の挽きかたやサイフォンの淹れかたも、しっかり習った。常連さんのお好みも覚えた。すると、ママが夕方から「ちょっと買い物に」と出かけることが多くなり、ちょっとのはずが1時間、2時間、閉店まで・・・そのうちママは私にカギまで預けて、夜は遊びに行く日々に。
コーヒーのプロでもない、客商売も初めての19才の田舎娘が、カウンターに陣取って、いっぱしのママ気どり。
けっこう真面目な女子大生だったので、豆の違いを覚えようと毎日、違う豆を口に含んで舐めていた。
サイフォンも、毎日毎日何10杯もたてていれば、コツもわかるし巧くもなる。こしたあとの豆がとがった山のような形になれば、おいしいコーヒーなのだけれど、我ながらホレボレするようなトンガリ山ができるできる。季節や常連さんの体調によって、オリジナルブレンドを配合できるようにもなった。
10年後、OLになった私は取引先にたのまれて、「おいしいコーヒー講座」の講師になった。これがかなりわかりやすいと好評で、シリーズになったほど。無資格ながら腕はいい・・・って、モグリの医者かと自分で自分につっこみながら、3年くらいは続けたろうか。今でも1日おきに豆を挽き、毎日20杯はフィルターで淹れて飲む。ああ、素晴らしきかなコーヒー人生。あのとき、私に店を押しつけて遊び歩いていたママに心から感謝している。